レゲエの基礎知識
ヴォーカル・スタイル
レゲエでは、マイク・パフォーマーをスタイルごとに呼び分けている。
ダンスホール期に誕生したDJによるトースティング、シングジェイ(Sing-Jay)、アウト・オブ・キー(Out of Key)はレゲエ特有の歌唱法である。
SINGER
シンガー。
ごく一般的な唱法で歌う人。
つまり歌い手であり、厳密にはDEEJAYのようなMC要素は含まれない。
CHANT
チャント。
シンガーが歌うのが第一定義とされるが、実際にはその意味の幅は広く、厳密には、詠唱(朗唱)もチャント。
詠唱とは、節を付けて歌う事。
例として、伴奏に合わせ、若干の節を付けて聖書などを読み上げるヴォーカル・スタイルである。
DEEJAY
ディージェイ
レゲエで言うDJは、レコードを回す人間ではない。
その音に合わせて(バンドの演奏など)ラップする人を指す。
同義語として、トースター(TOASTER)や、MC(MASTER OF CEREMONIES)がある。
同義語にMCがあるということは、ラジオのディスクジョッキーの要素に近い。
また、シンガーとDJの中立をシング・ジェイと呼ぶ。
SINGJAY
シング・ジェイ。
歌(シンガー)とDJの中間のスタイル。
このスタイルは完全にレゲエの為のスタイルと言える。
「歌よりはトースティングに近い、トースティングと見るには曲のコードにヴォーカルが滑らかに乗っている」というやや曖昧なスタイル。
このアーティストはこれだ。というように決められる枠ではなく、DJと認知される人が急に歌物を歌う事もありえる。
純粋なシング・ジェイに限りなく近いのは、Anthony B(アントニーB)が上げられる。
COMBINATION
コンビネーション。
一つの曲の中で二つのヴォーカル・スタイルが混在する事。
多い形態は、ヴォーカル・パート(シンガー)とラップ・パート(DJ)を受け持つ2アーティストが同一曲で、共演する形を指す。
コンビネーションの代表としてはMichigan & Smiley(ミシガン・アンド・スマイリー)が挙げられる。
TALK OVER STYLE
トーク・オーヴァー・スタイル。
既存する曲を使用し、通常ではイントロから出だしの部分を流して曲を把握させ、その上でDJがその曲のメッセージに呼応するスタイル。
同内容のトースティングを被せていくスタイル。
つまり、一度録音されたヴォーカル・ナンバーを使用し、DJが副次的に作品を完成させる方法。
OUT OF KEY
アウト・オブ・キー。
レゲエの一つの楽しみ方といえる、意図的にキーを外した歌い方の事。
例として、「ある曲のB面をプレイし、そこに別の歌を乗せる」という事。
この時、トラックと歌のコード進行がずれる。(当たり前の事)そこに生まれる違和感とも言えるマッチ感を楽しむ事でレゲエ独特の価値観といえる。
レコード録音/MIX
レコードに関する用語は、レゲエを楽しむ上で知識として必須項目。
レコード購入の際に役立つ用語から、レゲエを知る上で必須となるDUB PLATE(ダブ・プレート)といった重要な用語も含まれる。
VERSION
ヴァージョン
7インチレコードの裏面/B面で、表から歌が抜かれた、いわゆるカラオケの事。
歌を含めてリミックスされている場合もあるが、裏面に収録された物を主にヴァージョンと呼ぶ。
現場などでは、このシングル盤(コンパクト盤)の裏面のヴァージョンを使用しアーティストが歌う。
そこから、ダブ、ダンスホール・スタイルといったスタイルが生まれた。
注意したいのは、12インチ・ヴァージョンやダブ・ヴァージョンといった「版」という意味とは別ということ。
RHYTHM/RIDDIM
リズム/リディム
レゲエでは一般的に言うリズムとは全く違った意味で、レゲエの演奏部分の事。
つまり、歌やDJが乗るバック・トラックの音楽の事を指す。
同義語でトラック、オケとも呼ばれる。
例として、セレクターが言う「トラック買い」とは、同じリディムの曲を複数買う事。
また、レゲエ特有の文化の中で、Riddimには、それ自体で一つの完成品としての扱いがなされる。
ある曲のヒットから、他のアーティストが同じリディムでヴォーカルを乗せ、まったく別の歌としてリリースされる。
そこで生まれたリディムの流行の中で、最初にそのリディムが使われた曲名や、そのリディムの中で最も知名度を得た曲名などから、リディム自体の名前が付けられる。
DUB
ダブ
エコーやディレイ等のエフェクターを多く使用し、一からクリエイトしたサウンド全般を形容する言葉。
厳密には、ある楽曲を音の有無、バランス、音色、残響、タイミングなど、多角的に組立直し、別の作品を生み出す事。
ダブの処理のことをダブワイズと呼ぶ。
DISCO MIX
ディスコ・ミックス/ヤード・スタイル
ヴォーカル曲後半がダブ・ミックスになる形態の事。
ディスコとは、厳密にはダンス向けの尺の長いヴァージョンであるという意味。
ヤードとは、ジャマイカを指す。
性質上、主に12インチ・シングルで用いられる。
SHOWCASE
ショウケース
アルバムの作り方の種類の一つ。
ヴォーカル・ヴァージョンの次に同じ曲で、ダブ・ヴァージョンが収録されたアルバムの事を指す。
例えば、曲Aとそのダブ、曲Bとそのダブ、…という形式である。
ある曲とそのダブを直結させたディスコ・ミックスを並べてショウケース・アルバムと呼ぶ場合もある。
そもそもの生まれは、ジャマイカ・プロデューサーの合理主義からきている。
半分の経費で半分の曲目でアルバムを完成する事が出来ることが原点。
ONE WAY
ワン・ウェイ
アルバムの作り方の種類の一つ。
ワン・リディム・アルバムと呼ぶ場合もある。
つまり、全ての曲のリディムが同じアルバムの事で、同一リディムに様々なアーティストをコンペティション(=競い合い)させる楽しみ方。
A面で一つのリディム、B面で一つのリディムが使われる「2WAY(ツーウェイ)・アルバム」も存在する。
DUB PLATE
ダブ・プレート
アセテート素材の盤にカッティングする非売品の特殊なレコードの事。
使用目的としては、サウンド・システムを持つレコード・レーベルのプロデューサーが、ダブプレートを現場でプレイし、客の反応からリリースを判断する為の材料だった。
しかし、現在では各サウンド・システムが、独自にアーティストにサウンドを応援する歌詞などを依頼し、オリジナルの盤を作り、その盤のクオリティがサウンドの価値に大きく左右する。
ダブ・プレートの他にスペシャルとも呼ばれる。
サウンド・システム
いわゆる生の「現場」である。
ライブやショーで必須のサウンド・システムは、今日のクラブ文化のはしり。
サウンド・システムは重要なメディアの役割を果たし、ミュージックのプレイに対し入場料を払う興行要素がある。
レゲエ特有の様式や用語が存在する。
SOUND SYSTEM
サウンド・システム/ダンスホール/ダンス
ジャマイカ式の大衆娯楽を意味し、音響システムを用いてレコードのプレイや、マイク・パフォーマンスを楽しむ興行スペース。
単に、音響システムを意味するのではなく、そのスペースや、サウンドのクルー等、全ての総称として使われる場合が多い。
移動式の野外ダンスパーティを提供する音響設備でもあり、ダンスホール・レゲエで欠かせない要素の一つ。
SELECTOR
セレクター
レコードを選曲、回す人の事。
通常のクラブ・カルチャーではDJと呼ばれるが、レゲエではDJはマイク・パフォーマンスをする人を指す。
RUB A DUB
ラバダブ
ダンス形態の一つで、シングル盤裏面のヴァージョンに合わせて、ヴォーカルを披露するスタイル。
この形態を押し出すサウンドをラバダブ・セットと呼ぶ。
サウンド・クルーでシンガーやDJが所属する場合が多い。
SOUL SET
ソウル・セット
ラバダブを売りにしたサウンドをラバダブ・セットと呼ぶのに対し、ソウル・セットとは、セレクターがレコードを回し続けるスタイルのサウンドを指す。
JUGGLIN
ジョグリン
セレクターが複数のターンテーブルを使用し、曲をミックスプレイするスタイル。
いわゆるノンストップの事。
また、曲中の様々な箇所で次の曲に繋ぎやすい部分があるオケや、ビートが強めでループ感のあるオケを、「ジョグリン・トラック」と呼ぶ。
PART 2 STYLE
パート2スタイル
ロックステディ期に完成した手法。
同一のリディムを複数の楽曲で使いまわす手法の事。
その起源は、サウンド・システムの「Ruddy's the Supreme Ruler of Sound」が偶然にボーカルの入れ忘れたパラゴンズの「On the Beach」のダブ・プレートをプレイし、観客からの支持を得たという所が始まり。
当時は経済面の理由でパート2スタイルが主流に。
その後にヴァージョン収録が定番化される。
演奏形態
マイク・パフォーマンスではなく、バック・トラックの演奏。
レゲエでは曲を語る上でトラックの演奏自体がかなり重要視される。
HUMAN TRACK
ヒューマン・トラック
基本的に、バンドが演奏するリズム・トラックという意味。
70年代のルーツ・ロック・レゲエ全盛期の演奏はこの「ヒューマン・トラック」。
主に、コンピュータライズド・トラックと区別する為の語句として使用される。
COMPUTERIZED TRACK
コンピュータライズド・トラック
ドラム、ベースに変わり、リズム・マシーンと、シンセサイザー・ベースを使用するトラック。
リズムを打ち込むという表現から「打ち込みトラック」とも呼ばれる。
80年代後半には、コンピュータライズド・トラックが主流となった。
この打ち込みトラックが、ダンスホール・レゲエの基本とされると言われている。
DANCEHALL STYLE
ダンスホール・スタイル/ダンスホール・レゲエ
かなり広い意味を持つダンスホールという言葉だが、ヴォーカル・スタイルの概念は実際には関係ないと考えるべき。
ダンスのラバダブ・ショーのように、既存のリズム・トラックでまた別の曲を歌う事や、あるリズム・トラックを別の曲に使い回す手法の事を指す。
ただし、厳密にはヴォーカル・スタイルは関係ないが、アップテンポのDJスタイルそのものをダンスホール・レゲエとして表現する場合も多々ある。
ONE DROP
ワン・ドロップ
小節の1拍めにアクセントがなく、3拍目でスネアの音がスパッと落ちるのが印象的なビート形態。
音の隙間が特徴。
ボブ・マーリーの曲、「One Drop(ワン・ドロップ)」の曲名は、このドラムビートに由来する。
ROCKERS
ロッカーズ/ミリタント・ビート
スネア・ドラムや、リム・ショットの音を、マシンガンの発射音のように不規則的に連続させたものを、曲のビートに組み込んだもの。
その戦闘的とも取れるフレーズからミリタント・ビートとも呼ばれている。
チャンネル・ワンの専属バンドのレヴォリュ-ショナリーズが代表的な演奏者。
STEPPERS
ステッパーズ
ステッパーズは、1970年代後期から1980年代初めのUKのレゲエ・バンドから精力的に演奏されていて、現在もなおUKではプロトタイプとなっている。
特徴としては、そのベースラインがいかにもハウス的な四つ打ちのバス・ドラムで、4拍すべてに固いビートを加える。
ドラムの特徴としては、シンバルを使ったフィルが多用されず、アクセントをつけず平板なビートを刻む点が挙げられる。
カールトン・バレットが演奏する、ボブ・マーリーの曲「Exodus(エクソダス)」がステッパーズの代表作として有名。
ここでは、異例のハイハットの3連リズムを絡めている。
メッセージ
歌詞の持つ意味のことではなく、歌詞のタイプを別ける場合に使用するメッセージに関するカテゴリ。
レゲエの持つメッセージは時として歴史を動かしたり、人々に多大な影響を与える。
CULTURE
カルチャー
ラスタファリアンのメッセージの総称と言える。
アフリカ文化を背景に、世の中の出来事を自己に取り込み吐き出したカルチャー。
ラスタは独自の明確な教典が少ないことから、歌い手によって意見がわかれるのが特徴。
CONSCIOUS
コンシャス
真面目な姿勢のことを指す。
つまり、ラスタとして、理性的で自覚的なものは、彼等にとってのコンシャス・メッセージとなる。
SLACKNESS/GUN TALK
スラックネス/ガントーク
下ネタ、暴力ネタの意味。
最も印象深く、メッセージ性の強い攻撃的な要素や退廃的な内容から、80年代中盤頃からたびたび歌詞の内容が問題とされてきた。
ジャンル・カテゴリ
1960年代、スカやロックステディの誕生から様々な進化を遂げてきたレゲエのサブジャンルごとの歴史。
そのカテゴリの持つレゲエ・スタイル。
トースティング
トースティングとは、リズムやビートに合わせてしゃべったり語ったりする行為を指す。
歌詞は用意された場合もあれば、即興の場合もある。
トースティングの起源は、ドラムのビートに乗せて話すグリオのようなアフリカの伝統にあり、
ダンスホールレゲエ、レゲエ、スカ、ダブ、ラバーズロックなどのようなジャマイカン音楽まで、様々な使用がなされている。
ジャマイカでは、1960年代の終わりから1970年代初頭にかけてDJトースティングと呼ばれる音楽スタイルが生まれた。
移動式のサウンド・システムで行われるダンスでヒット曲を流す際にディージェイがトーストでボーカルを追加するといったスタイル。
トーストの内容は、チャント、ハーフソング、リズム、自己発言から講義、叫び、物語などが主流だった。
また、トースティングは米国のヒップホップにおけるラップの発展にも影響を及ぼした。
ラヴァーズロック
1970年代半ば、プロデューサーのデニス・ボヴェルがラヴァーズロックの始まりである。
彼は、ルイサ・マークスとソウルナンバーで有名な「コート・ユー・イン・ア・ライ」をレゲエヴァージョンで製作した。
そのきわどいまでの女性のセクシー性と甘くとろけるようなスイート性をもったレゲエ・スタイルは、かなりのレゲエファンを引き付けるのにも十分な出来栄えとして現代版ソウルとなる。
今現在でもファンの数には圧倒されるジャンルである。
ロックステディ
ロック・ステディは、ジャマイカのシーンにおいて、初期のスカに代わって誕生したスタイルである。
言わばレゲエ誕生前のスタイルである。
ロックステディの特徴はベースラインを軸としてギターが裏打ちのリディムを刻み、緩やかなテンポである。
その特徴から多くのロックステディはラブソングである。
また、そのロックステディという名の由来は、レゲエ・ミュージシャンの先駆者アルトン・エリスの「ゲット・テディー・トゥー・ロック・ステディ」という曲名と言われている。
ダンスホール
ヒップホップ、ラップの先駆けであるダンスホールのルーツは、1970年代のジャマイカのナイトクラブから始まった。
サウンドシステムのプレイバック・コントロールの調整で、録音されたトラックに、DJがトーキングやトースティングして音楽を作った。
これが始まりでダンスホールが誕生。
初期のラップは「ダズンズ」と呼ばれ、楽しむという前提でお互いをけなし合うアフリカ系アメリカ人の伝統から生まれたとされる。
ポップレゲエ
ポップ・レゲエはその名の通り、ポップ・アーティストがレゲエのリディムで歌った事が元々の始まり。
さらに、レゲエ・アーティストが白人マーケット進出の為に受けるように甘ったるさを加えて完成した。
どちらも意図的にされた事である。
今現在でもUB40やジギー・マーリーといったアーティストはポップ・レゲエ・スタイルを貫いている。
ルーツレゲエ
レゲエと一言で言うが、世界で一番浸透しているクラシック・レゲエは、やはりルーツ・レゲエである。
リード・ヴォーカルにロックステディのリディム、歌詞に政治経済からラスタファリズムをのせる。
このスタイルはレゲエの神ボブ・マーリーが影響力を持ち、後のルーツ・レゲエは彼の影響なしとは考えられないだろう。
ダブ
ダブというスタイルはDJ自らと言うよりも、プロデューサーの手によって作られたと言われている。
ダブとは、70年代に発祥し、レゲエリディムにサウンド・エフェクトや、リヴァーブをかけ、ヴォーカルをちりばめたものである。
始まりはレコード作製の段階にある。
A面を作成した後、B面でA面のダブヴァージョンを作成する為に、エコーでヴォーカルを隠し、ベースラインからリヴァーブを駆使したのである。
そのダブというスタイル確立につれ、色々な楽器のリヴァーブが作成されるようになる。
現在では、ドラムンベース、トリップホップなどのエレクトロニック・ミュージックに影響を与えている。
ラッガ
ラッガとは「ラガマフィン」の略と言われ、ジャマイカDJスタイルの音楽である。
特徴は、ルーズで卑猥な歌詞など、悪態をつくエッセンスがあげられる。
歌詞に織り交ぜられるものはほとんどが首都であるキングストンのトラブルの多さを映し出している。
路上音楽が原点である事から歌詞の自由さが特徴的である。
スカ
ジャマイカR&Bアーティスト達が自国発祥として確率した音楽。
1950年代に彼らがジャズやアフリカン、カリプソのリズムを取り入れて発展させたものだ。
コレといった決まりのない中で生まれた為、様々な楽器や音楽の融合が見られる。
唯一の共通点として、R&Bの4拍子だが、「タメ」と呼ばれるアクセント重視の演奏がある。
通常のスカ・バンドはリズムセクション、ギター、キーボード、金管楽器、セクションから成り立っている。